最終更新日時 2018-02-03 02:20:23

私の趣味ー『狛犬』 第11回 (藤山正純) 

私の趣味「狛犬」    第11回(最終回)      藤山正純  (S47 政経 藤山正純法務事務所)

2.狛犬各論
(4)中国・四国の狛犬たち

  中国・四国という広大な地域の中で私が実際に見聞できたところは、島根、山口、岡山、愛媛、高知、香川の6県に限られ、しかもそのうちの一部の町に過ぎません。ですから、それらをひとくくりでお話しするには少し無理があるのですが、ここには「出雲型」と「尾道型」という二大勢力がいて、そのバリアントを含めると、概ねこの地域の全体をカバーしていると言ってもよいほどです。その中に、関西風や九州風のモデルが交じり、また備前焼の古里である岡山には陶製の狛犬がいたり、といった具合ですから、「出雲型」と「尾道型」を軸にお話を進めれば大過ないように思われます。

 ①出雲型のうち出雲式
 「宍道湖七珍」とは島根県の宍道湖に産する7種の食材を指しています。そのうち「スズキの奉書焼」を経験しましたが、奉書紙の香味が移った白身の魚は、淡泊な中にしっかりした風味もあり、実に上品で滋味深い食べ物でした。さてその宍道湖には、もうひとつ重要な産物があります。それは宍道湖畔に産する「来待石(きまちいし)」です。凝灰質砂岩で柔らかく、細工に適しているため、古来石材業がこの地方の地場産業となっていました。
出雲型狛犬はそうした環境の中から生まれた傑作で、雄大でありながら素材の柔らかさを生かした精細な彫刻を施した優品です。出雲型狛犬には2通りのポーズがあり、一つはよく知られた「出雲式」で、もう一つは「蹲踞式」です。

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                 写真① 島根県八束郡東出雲町揖屋 揖屋神社の出雲狛犬(出雲式)
 写真①は揖屋神社の出雲式です。頭を下げ、尻を高く上げた特異なスタイルで、大柄な体格と相俟って重厚感や動感に優れています。原石の大きさと比べた製品の歩留まり率はかなり低いので経済性はよくないはずですし、尾や後肢の形を見れば分かるように、いつ折れるかも知れない実にリスキーな造りです。しかしそんなことにはお構いなく、とにかく美観を優先するという、確固としたコンセプトが感じられて豪快です。この型のオマージュは九州でも盛んに造られていて、いかに出雲式のインパクトが強かったかを如実に知ることができます。
 しかし、加工の容易さは来待石の柔らかさに負うものであり、一方ではその特質は製品寿命の短さとなって表れてきます。そもそも来待石の寿命は人間と同じくらいと言われているほどです。その上、前述したとおり強度を度外視したデザインであるため、各所に欠損や表面剥離、ひび割れが忍び寄っており、本場の島根ですら完全なものは少ないのが現状です。

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                      写真② 島根県松江市殿町  松江神社の出雲型(出雲式) 

写真②は損壊の始まった松江神社の出雲式です。顔面の下部は完全に崩壊しています。しかしこれはまだ良い方で、尾や脚の折れたものも多く、古いものではもう狛犬だったことさえ分からなくなったものも少なくありません。そうやって間もなく土に還ろうとしている狛犬を前にすると、心の中で「お疲れさん、御苦労でした」と声をかけないではいられません。

②出雲型のうち蹲踞式

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                    写真③ 島根県松江市中茶町  末次神社の出雲型 (蹲踞式)

  写真③は出雲型のもうひとつのタイプである蹲踞(そんきょ=お座り)式です。どっしりした安定感があり、何事にも動じない威厳が滲み出しているようです。厳つい顔立ちとは裏腹に、アウンのどちらかがしばしば子獅子を抱いています。これが一般的な蹲踞と異なる点は、前足をきちんと揃え、また前後の脚が接近していているので、体の割に接地面積が小さいところです。そのため体が立っており、いかにも「居住まいを正した」姿勢に見えます。そうした点も、この型の尊厳性の源泉になっているように思われます。

 ③尾道型

 

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                         写真④  岡山県倉敷市本町  阿智神社の尾道型 

写真④は倉敷市の阿智神社の境内末社「荒神社」の狛犬です。台座に文化14(1817)年の銘がありますが、狛犬はそれほど古いようには見えませんので、先代の跡を継いだ二代目ではないかと思われるものです。しかしこの造りは先代のスタイルを再現したものと推察されますので、尾道型が始まったころの様子を伝えている可能性があります。

 尾道型の特徴は第一に、巨大な玉を抱えていることです。これはどんなバリアントにも一貫して用いられているモチーフであって、最重要な要素と考えられているようです。次に顔立ちは険しく、体つきもスリムなことが多く、全体として俊敏で剽悍な印象を受けます。また、尾の一部が反って後頭部に接着しているものがしばしば見られます。

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                        写真⑤  山口県岩国市横山  吉香神社の尾道型  

 写真⑤は尾道型としての一つの典型と思われるものです。「大玉」「剽悍」「尾の形」という三要素を持ち合わせています。写真④よりは大柄であり、技法の発達ぶりから幾分時代が降ると想像されるものです。因みに、尾道型の大玉で、真球であるものは実は少なく、この玉を造る技術がいかに難しいかを物語っています。

④南予型(尾道型のバリアント)
 私の狛友(HPに狛犬画像を投稿して下さる方)が名付けた型で、その名の通り、愛媛県南西部に集中的に分布している尾道型のバリアントです。しかし単に「影響を受けた」とか「模倣した」というレベルではなく、尾道型を基にして新しい境地を切り拓いたと評価するのが妥当です。この地域は同じ愛媛県内でも松山藩とは別の宇和島藩内(正確にはその支藩の吉田藩)です。宇和島藩には慶長19(1614)年に、あの独眼流伊達政宗の庶長子秀宗が入り、以後伊達家支配のまま幕末に至ったという経緯があります。親藩だった松山藩とは何かと気風の違いがあって当たり前で、狛犬の様式にもそれが反映されていると思うのは考えすぎでしょうか。

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                      写真⑥  愛媛県北宇和郡鬼北町  高鴨神社の南伊予型

 写真⑥は南予型のひとつで、その性格をよく表しているサンプルです。尾道型より目が大きく、ヒトミが刻まれているので眼光も鋭いです。また疎らで尖った鋸歯列が並び、長大な牙を有しています。剽悍さが身上の尾道型に比べても、荒々しさでは本家を上回っています。

 おわりに
 マニアックなテーマに長期間お付き合い下さって、有難うございました。あまりお役に立ったようには思えませんが、どこかで私の趣味をご披露したいと思っていましたので、こうした機会をいただいたことに感謝しています。投稿を促していただいた眞柴会長や、編集面でお世話になった上西特別顧問に改めて御礼申し上げます。
 もうすぐ初詣の時期です。神社においでになる際に、狛犬に目を向ける方が少しでも増えたとすれば、望外の喜びです。もの言わぬ狛犬に、やさしい眼差しを注いでやってくださるようお願いして、この稿を閉じたいと思います。

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