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最終更新日時: 2019/12/09 06:05 筆者: morita 2019/12/09 06:03
『日韓の対立をいかに乗り越えるか』 キム・ヘギョン氏の講演を聞いて
上 西 紘 治 (S41 工学部卒)
令和1年11月26日開催された11月忘年例会は、講師に日本大学危機管理学部准教授 金惠京(キム・ヘギョン)氏を迎えて『日韓の対立をいかに乗り越えるか』と題して講演をいただいた。現在の日韓関係は、両国政府が互いを非難しあう対立が続く最悪の状況にあり、演題はまさに時流を得た私達の最大の関心事である。いつもより多い50名もの参加者はキム先生の話に最後まで真剣に耳を傾けた。
講演要旨
1.近年の日韓関係
日韓関係は2015年の慰安婦合意から好転した。2018年には両国間で1000万人を超える旅行者が交流し、殊に韓国からは750万人もの旅行者が訪日した。また多くの日本人が韓国文化に注目し人気を博した。
2018年10月韓国大法院が元徴用工への賠償を命じる判決を下し、翌月に慰安婦財団の解散が決定したことで潮目が変わった。2019年1月、日本が韓国へ交渉を呼びかけるも、韓国側から反応が無く、5月に入り韓国が徴用工問題の解決策を提示するも、日本側はすでに強硬路線へ舵を切っていた。そして、7月には韓国への輸出規制が発表され、追って韓国を「ホワイト国」から除外するに至った。韓国側も8月15日の独立記念日の式典で文大統領が日本へ対話を呼びかけたものの、無反応であったこと等を受けGSOMIA破棄を通告した。日韓両国は直接的な行動をもって反発し合うようになったのである。
2.日韓対立の問題点
1)感情的な対立へ
7月以降の日本側からの圧力を受け、韓国は不買運動と渡航自粛を展開した。韓国国内では安倍政権への批判はするも、日本全体への批判は避けるような流れもあったが、日本には詳細は伝わらず、韓国の反日イメージが強化される結果を生んだ。
一方、日本では主要政治家の強硬な発言が国内メディアの言説の過激化を招き、韓国側に立つ主張は回避される悪循環が生じた。その結果、韓国の主張の背景や論理を知らないまま、自国の論理のみが拡散する傾向が見られるようになったのである。
2)対立を解きほぐすカギ
日本において、韓国に対する主だった誤解が三点ある。第一に「2018年の大法院判決は突然行われた」とするものである。しかし、実際は2012年に大法院が原告敗訴の判決を高裁に差し戻しており、この結果は十分に予想されていた。第二に「韓国は“国民情縮法”があり、司法も世論に追従する」との見方である。しかし、大法院は厳格な司法分野のエリート集団であり、法的な論理を構築して判断を下している。第三に「文在寅は反日思想を利用している」とするものである。しかし、大法院判決まで文大統領は日韓請求権協定を支持しており、支持率も近年は「反日」では余り上昇しないことは、韓国国内で認知されている。
3.徴用工判決に対する韓国の論理
1)憲法優位説(日韓請求権協定等の国際法より憲法が優位とされる。日本も同様の立場)
2012年に大法院が差戻し判決を行った際、「憲法精神と両立しないものは効力がない」とした。その論拠となったのは、「大韓民国憲法」と「植民地支配に対する認識」である。憲法前文では1919年に設立された臨時政府こそが正統な韓国政府とされ、強制性に基づいた日本の植民地統治は併合以前から違法との認識が韓国国内では一般的なものとなっている。植民地支配の正当性については、以前より日韓で評価が分かれていたが、日韓基本条約で玉虫色の表現が採られたことで、日韓で異なる認識が固定化し、今回の判決が日本にとって理解し難いものに映る要因を生んだ。
2)三権分立
確かに、盧武鉉政権時に徴用工問題は解決済みとの判断が下されたものの、今回は大法院が憲法を根拠の一つとして判決を下したため、文政権は三権分立の原則に従い、司法判断を尊重した。また韓国の司法の特徴として、政府方針に反しても自らの判断を下す「司法積極主義」の姿勢が挙げられる。一方、日本は基本的に政府方針に司法が追従しがちな「司法消極主義」をとり、国会や内閣も司法判断を時に軽視するため、両国に乖離が生じている。
4.日韓両国が目指すべき道
1年間で人口の15%に当たる750万人もの韓国人が来日している事実に目を向けて欲しい。韓国は反日的と烙印を押すのではなく韓国なりの論理が存在する事を知らなければならない。互いに理解し友好関係を維持するには、相手との妥協点を探すのが政治であり外交である。そうした中で、若い世代に新たな希望を見ることができる。今や新大久保は多国籍の街となり、多くの若者が集い拡大を続けている。彼らが偏見なく韓国をより深く理解できる環境作りが求められている。今後は、双方の認識を知った上で行動する時代となっていかなければならない。
全国紫明クラブでキム・ヘギョン氏に講演をいただいたのは今回が2度目である。初回は5年前の2014年 明治大学法学部助教の時代にお願いした。2015年日本大学危機管理学部准教授に就任され明治大学を離れられた。今回の講演を聞いてまず学者として大きく成長された印象を強く受けた。先生は常に冷静で穏やかな雰囲気で話さられるのですが、今回はそれに加えて難しい日韓関係の改善についての提言は力強く説得力を持っていた。私達はテレビのワイド番組で報道される韓国情報に偏りすぎているようだ。もっと韓国のことを知り理解を深める必要があると痛感した。
金恵京先生 上西特別顧問
当日の写真は別途掲載いたします。