最終更新日時 2024-04-26 22:28:34

「情熱が人財を創る」山本良一㈱大丸松坂屋百貨店社長の話を聞く (伊藤尊示) 

心をつかみ続けるマネジメント~情熱が人財を創る~山本良一氏・㈱大丸松坂屋百貨店・代表取締役社長のお話を聞く!

      平成24年12月5日     伊藤 尊示  (S48年 農学部卒 前 三井製糖㈱ 現 ㈱ユニバーサル企業)

山本良一社長 (S48年商学部卒)

11月30日に、明治大学職員会60周年記念講演会「心をつかみ続けるマネジメント─情熱が人財を創る─」山本良一氏 株式会社大丸松坂屋百貨店代表取締役社長(1973年商学部卒)を聞いてきました。

「組織が心を動かす」13人抜きで社長に抜擢され、「現場の意識を変える」事で劇的な経営改革を成し遂げてきた山本社長、人の心をつかんで動かすマネジメント術、あふれる情熱と実践から生まれる人財について熱く語る!、
学生時代から時間という資産の使い方、ビジネスシーンで求められる人財について話をして頂きました。

 ①    山本社長は、1960年4月に明治大学商学部に入学されている。子供の時からバスケットに熱中、明治大学に入学してからもバスケット部に所属し、全日本学生選手権・日本一の座を3度経験している。夢はオリンピックに出たい!、を目標に頑張ってきたが、オリンピックの夢は実現できなかった。国会議員の誰かが言っていたが、日本一でなければ駄目なのである。2番手では駄目なのである。日本一になって目標を持つことの意義がそこにはある。一番にならないと分からない事は多い。達成感、日本一の仕事、日本一の百貨店を目指す事を目標としている。日本一でなければ記憶に残らないのである。良い例の話をしよう!、富士山は日本一高い山であるが、2番目に高い山はどこか、琵琶湖は日本で一番大きい湖であるが、2番目はどこか、受験者数が最も多い大学は明治大学、では2番目はどこか、果たして何人の人たちが明確に答えられるだろうか。

最近、気概のある若者が入社してこない!、はったりでも良いから明治大学からこのような人財が入る事を願っている。

②    当時、私はヒラの部長であり、取締役の経験なしで社長になった。社長になってはじめて取締役会に出席、出席されている人たちは全部上司であり先輩であった。社長になって感じた事は、従業員の生活、その従業員の家族の事を考えると夜眠れない事もあった。

③    学生は、学校で学ぶ基礎学力は絶対に必要である。先ず、目標設定がしっかりできる事が大切である。実践力、チームワーク、リーダーシップ、部活で学んだ精神力、組織の活性化、目標を達成するために何をなすべきか、ひとつの集団を引っ張る事により学んだ事は必ず役に立つ、常に限界に挑戦してきたが、よく生きてきたなぁー、と思うほど練習をしてきた。バスケットで巧くなりたい、試合に出ない!上手な選手の真似をする!そしてその人の上に行きたい、そんな思いを持ちながら常に試合に勝つことを考えてきた。自分にとって良き指導者・助言者を見つけることは大変重要な事でもあった。バスケットを続ける本質的要素の中に4つのS、すなわちspeed、skill 、success、 spirit、そして学生の場合はもうひとつのS、studyが必要となる。この考え方は経営にとっても必然である。4つのSが揃わないとバスケットは勝てない。企業が勝ち残っていくためには競争に勝たなければならない。経営に重要な原点、将来の原点とは何か、義を先にして理を後にする。バスケットで培った4Sを今でもマネジメントに使用している。朝出した命令を夕方には変える位のスピード感が今は必要である。

④    今の商売はデータベース、科学的な分析に基づいて考えなければ利益が出せない。年度予算、当期利益、これを必ず達成する。経営とは実践がすべてであり、その本質を抑えれば必ず利益は出る、と考えている。ヒット商品の根源的要素とは何か?、なぜを3回繰り返してみる!、突き詰めていくと本当(真実)の要素が見えてくる。顧客第一主義、お客様第一をしっかり抑える、そのようにすればどんな変化があっても抑えられるものだと考えている。変化を一つ一つ追いかけていく~何が不可能で、どうして商売ができないのか、根本的要因は何か~を常に考えている。

⑤    1985年男女雇用機会均等法が施行され、女性は男に負けないだけのスタイルの変化を起こしている。その根源を見る~勝利の方程式は必ず見つかるもの、マネジメントとは時代の変化に応じてヒト・モノ・カネとどうやりくりしていくか、これが大切なのである。

⑥    2008年のリーマンショック、それ以来、日本の企業は赤字低迷が続いている。企業として生き延びられるのかどうか、厳しい状況である。大丸松坂屋にしても以前は200~300名の大卒採用があったが、今は30人程度の採用となっている。売り上げの低下~人件費の低減、退職者不補充などでの対応が続き採用が減っている。日本の企業は構造的に中間管理職が不要の時代を迎えている。以前は書類作成の業務などにたくさんの中間管理職が存在していた。IT時代において中間管理職を不要とする企業はそのpositionを削減している。百貨店でも1店舗当たり数名のマネージャーがいればよい世の中となっている。今企業は国内生産から海外生産へとシフトしているが、外国での中間管理者は現地採用化している。日本の社会構造の変化、階層化は以下のようになっている。

2009年比での所得水準であるが、

(1)600~800万円は14.3%減

(2)800~1000万円は16.4%減

 (3)  400万円以下は全体の60%を占めている。

   これらを見ていると、管理職不要の状態が見えてくる。

⑦    今までの常識は通用しない。昨日売れたのに今日は売れない!バブル以降のライフスタイル、価値観の変化、戦後生まれの3代目ファミリーとは価値観のギャップがある。バブルを知らない世代に対しては今までのやり方、考え方は通用しない。少子高齢化の時代を迎え、大量生産大量消費の通用しない現在においては当然以前のやり方(過去のやり方)は通用しないのである。見込み生産における罪悪、一品一品の需給生産を目指す、時代の変化にダイナミックに対応、自己変革できる企業こそが生き残っていけるのである。新しいビジネスモデルは毎日変化している。Creative、挑戦心としてのマインド、企業の中ですら生き残っていけない人が多い。当たり前の事はITがやる、そんな時代なのである。成功の体験に甘えず、勇気を持って生きる、変革の波の中に入っている人財、誰かがやっくれるのではないか、などと思うのはもってのほかで、常に自らを変える変革のマインドが必要なのである。

⑧    山本社長のマネジメントのバックボーン

  自らの価値観、基本思想に基づいてマネジメントするには以下の考え方が必要である。

 (1)素直であれ!

    素直でなければ情報は入らない。良い情報は素直であれば入りやすいもの、部下からの情報、上司からの情報open mindの考え方が必要である。

  (2)プラスの発想

   どんなイヤな事があっても必ず良くする、良くなると思えば必ず良い人とめぐり合える。そこには目に見えない「気」のようなものができる。 

  (3)常に勉強熱心であれ!

     何事にも興味を持つ、理解しようとする意識を持ち続けることが重要である。とことん納得するまで調べる、そんな気持ちが必要である。今でも友人のアドバイスを守っている。必ずカバンに2冊の本を入れて電車に乗る事、その本は1冊はビジネス書、もう1冊は砕けた小説のようなもの、もうかれこれ40年以上、これを守り通している。読書は40年以上やり続けると自分にとってためになる事、良い事がたくさん吸収できる。昔の友人のアドバイスを素直に聞いてやり遂げている。入社してから勉強をし続けた。あらゆるものに興味を持ち続ける事が必要である。

⑨    本当のプロは人の目に触れないところでコツコツ練習している。小さなことでも良いのでやり続けてもらいたい。学問には座学と実学がある。実学とは実現、実験、実証、実践、実行と言われる。

⑩    企業は、利益を出し続けることが大切である。結果を出せない人がたくさんいる。社会では座学の知識を知恵に変える必要がある。会社のため、利益のため、社会のため、自分のため、何を学んで何を実践するのかを考える。学校で学んだものは基本ではあるが、社会で役立つものではない。

⑪    マネジメントの資質(5つの要素)

(1)体力のある人

  体力はすべてに優先する。体調が悪いと良い考えが出てこない。年間120回くらい飛行機に乗っているが、休みはほとんどない。社長は常に現場に足を運ぶものであり、移動しないと駄目なのである。現場に行くだけで現場は成長する。このような現場対応は体力が必要であるが、動きながら考える、行動しながら考える、そんな日常なのである。

(2)気力のある人

  意思とか意欲があること、志の高さ、世界一、日本一になるような目標を持ち続ける。ヒトとしての志が低いと立ち向かうことができない。意欲・意志の強い事が求められる。ヒトは仲間内で慰めあうのではなく、言い合う、高い意思、成果を競い合う、切磋琢磨する、葛藤を避けずに、前向きの風土で、企業内でお互いに高めあう組織が必要である。

(3)リーダーシップ

  ゴールに向かって組織を束ねる。高い志、視野の広さ、視野の高さ、そしてリーダーは人間的魅力を備えていなければならない。人間臭さが必要なのである。やるべき事をメンバーに伝える、五臓六腑に落ちるまで説明する、説明して~説明してメンバーに思ってもらえるようなそんなリーダーシップが必要である。リーダーの中に部下にきちんと伝えていると言う者がいるが、きちんと伝わっていないことが多い。つまり腹の底から言っていないのである。あのヒトがいうならやろう!、意思・意欲に語りかける、リーダーシップとはどうしたら発揮できるか、を常に考えなければならない。

(4)視野の広いヒト

  将来あるべき姿を見据える視野の高さ、大局を見る、社会の中での企業の役割、そして自分の役割、change scale、つまり判断のモノサシを変え、戦略的に物事を考える事のできるヒトを採用する。中長期的5~10年先を見据えて理想とする企業や社会、そして自分を考える、未来に対する自分のイメージ、あるべき自分の姿、自分の足りないものは自分で解決しなければならない。

戦略という言葉の意味は、昔、空軍は海軍の一部であった。本土から編隊を組んで攻撃することはできなかったが、B29の出現によって本土からの編隊、大きなスピード、大きな飛行機、たくさんのもの(爆弾)を積める、そんな歴史の背景から戦略という言葉は生まれている。天地人とは、地上に降りられない理想を知っている神が地上は揉め事ばかりで、それを見かねて天地の間に人間をおき天命を与えたと言われている。ヒトは課題があって、それを解決する為に地上に置かれているのである。

 (5)自分の頭で考えて、スピードがあって実行力のあるヒト、自分の頭で考える~スピードがあって実行力のあるヒトにならなければならない。人間は、地球のどこで生まれようがどんな人種であろうが、数え切れないほどの脳の神経細胞が与えられている。自分の頭だけでなく、情熱に火がついて脳の神経細胞が生き生きと働くのである。頭が良いという事ではなく、理性だけでもなく、命がけでやる、自分の心に火をつける、そんな考え方が必要なのである。残念ながら今の若者にはそのようなタイプのヒトは少ない。自分の頭で考え抜き、情熱に火をつけ、課題を明確にし、最後までやり遂げる、これからの企業経営においては柔軟に対応でき、かつやり遂げ、やり抜く人材が求められている。自分は何になりたいのか、その目標を掲げ、自分のキャリアは自分で作る、そんな高い目標を持つ人財になってもらいたい!

目標を明確に持つ、自己を理解し、何がしたいのか、何を求めているのか、ヒトはできるだけ高い目標を持つべきである。

⑫    少子化の中でのマーケティング

人口減少下でのマーケティング、顕在化したマーケット、潜在的マーケットは無限にある。それに見合った商品、spiritualなマーケット、不安というニーズに対して満足を売るマーケットは必ずある。いまやアメリカ的なセグメントはありえず、隠れた部分を探す、そこに新たなマーケティングがある。

⑬    顧客が求めているものに忠実に対応

かっての考え方は通用しない。本当に顧客の必要なもの、顧客の求めているもの、人件費を削ってでもやるべき時はやる必要(覚悟)がある。自分たちのやりたいことだけを追求していたら駄目なのである。自分の身を削っても顧客の要望に対応する精神が必要である。

⑭    所得の階層化は歴然として存在する。年齢、性別、データベースによって顧客の情報は把握できるが、20~30代の顧客が少ない。年配者には新聞の折込広告で通じるが、若いヒトは新聞を読まない、見ないのが当たり前の世の中になってしまっている。若いヒトに物が売れない、つまり若いヒトに対するアプローチができていないのが実態である。若いヒトのライフスタイルを企業はもっと研究する必要がある。若いヒトに対する情報の提供の仕方、若いヒトが欲しくなりそうな商品、どうしたらメッセージを伝えられるか、若いヒトの実態が掴みきれていない。解決策は現場にあると考えている。データとのギャップがあったりする。つまりやり方が良くない。顧客はいるのに売り上げが上がらない、デパート側が発想を変えなければならないのです。

⑮    山本社長の目標

(1)  百貨店で日本一になる。その為のよき人財はいる!

(2)  引退した時に後輩に継続できる会社を作る! その基礎をしっかりやる!

(3)  カードでつながる顧客の固定化対策を推進する!

(4)  財産としての良き顧客を後継に引き継ぐ!

  それが社長の仕事ではないかと思っている。

 ※山本社長は90分間のご講演の中であふれる情熱とヒトの心を掴んでヒトを動かす実践する経営の大切さを何度も何度も語られている。90分の間、多くの聴衆を釘付けにし、すばらしい時間を提供して頂き、心から感謝を申し上げたい気持ちで一杯である。山本社長の経営者としてのご講演の内容の一つ一つが、たくさんの明治大学関係者と共に共有化できたことは言葉に言い尽くせないほどの感動の時間であった事を最後の言葉として結びたいと思います。

伊藤 尊示

山本良一社長 (S48年商学部卒)

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