最終更新日時 2024-04-26 22:28:34

NHKニュースキャスター大越健介氏講演ー『ニュースが変わる』を聞いて(伊藤尊示)

★講演 『ニュースが変わる』を聞いて  伊藤尊示 (S48年農学部卒 ユニバーサル企業㈱)                                           

伊藤尊示氏

  4月14日、明治大学アカデミーホールでNHKニュースキャスター、大越健介氏のお話を聞く機会があった。大越氏は2年前から[NHKニュースウォッチ9]を手がけておられる。大学時代は東大野球部のピッチャーとして8勝27敗の戦績、東大の六大学野球における投手としては素晴らしい実績を残されている。「思い出に残る試合は、大学の2年生の時に、明治大学との闘いで1回に6点を取られたが、その後9回までは0点に抑えた。6回の時に打席が回ってきて2アウト満塁でセンターオーバーのヒットを打ち、6-4まで追いついたが、結局負けたのだけれど満足のいく負けという思い出がある。もうひとつの思い出は、立教との戦いで1安打を許しただけで負け、その1安打はホームランだった。1-0であったが、好投しても負けは負けとの忘れられない思い出がる」
90分という長時間でのお話でしたが、ユーモアにあふれるお話で、大越氏のニュースに取り組まれる一途な姿勢に多くの聴衆が感動したに違いない。
尚、大越氏の息子さんは、日大三高(2005年・夏の甲子園ベスト8)の投手⇒明治大学野球部で投手(2010年卒)⇒現在・ノンプロの新日鐵住金ステンレス)で内野者として活躍中。

 講演の概要を以下にまとめてみた。

 ① NHKの記者としてスタートした。キャスターとは何か?
取材者として透明でまっすぐな立場で表現する、取材対象に寄り添い愚直に自分の取材したものをみんなと一緒に共有する。取材する人と取材される人との間をとりもつ中間的な立場が自分の立場だと思う。

②政治記者として20数年間活動し、政治景色、外交、政治の行方、今の政治を絵解きする仕事をしてきた。しかし、3・11の大震災で見方が変わった。やはり現場に行って取材し、取材をして人に伝える事がいかに大事であるかをあらためて知った。今思えば、3・11の緊急報道~一人でも多くの命を救うためにテレビ、ラジオだけでなく、インターネットを使ったり、もっとやるべき事があったのではないかと思ったりする。3・11の9時のニュースは1時間から3時間の番組となったが、津波がひいた後の状況、災害の2次的被害等を取材する事によって多くの人達にその事実を知ってもらいたかった。

講演中の大越健介氏

② 発事故の後、土・日を利用して南相馬市を訪ねた。津波もひどかったが、原発事故の被害もひどかった。今でも身元の確認作業が続いている。飯館村の人々が負っている深い悲しみ、今でも16万人が自分の生まれ故郷に帰れない。原発の再開の話があって原発をどうするか。原発を止めるべきとも言えないし、電力不足の現実、大飯原発の3.4号機を再開させるべきか等、公平な立場でどう伝えるべきか現場で様々な声にぶつかる。日々走りながら取材をした事を伝え、視聴者の目、耳、口となって走り続ける、そんな思いをいつも感じている。

③ 陸前高田の松原には松の木が一本のみ残っている。[希望の木]として詩を書いて出版した作家は[千の風にのって]の作曲者新井満氏である。生命が失われても失われないものがある。陸前高田の人々は命というものを毎日考えたそうだ。

⑤[釜石の奇跡]、震災によって釜石は多大な被害があったが、99.8%の人が助かった。地震~津波、という教育・学びのおかげによる成果であった。教える事で人の命を救ったのである。一人ひとりが責任を持って逃げる、高台へ逃げるのだけれど、逃げる時は人の命を助けながら逃げる事、年下の子供の手を引いて大きな声で逃げる、伝える事の大切さを教えたのである。(教えた人・群馬大学大学院の片田敏孝教授)

陸前高田の一本松

⑥大地震、津波は計り知れないものがある。1000年に1度の大地震、ハード面だけで防災をやろうとしても非現実的である。財力だけでは人を助けることはできない。防災教育で教えた事が命を救っている。

⑦原発。福島の原発は廃炉までに40年もかかり我々の世代だけでは完結しない。関電の今夏の電力は19%不足すると言われている。原子力が動き続けて安心か否か、自分たちの時間軸だけでは考えられない。自分たちの人生で終焉させられないもの~後世にツケを回していいものなのかどうか、難しい問題である。

⑧例えば老後の問題、根本的に解決すべき問題として負担とサービスをどうするかという問題がある。今の幸せを長く続ける為には責任のあり方がある。消費税の問題については様々なやり方があると思うが、欧州型、米国型、負担とサービスを考えた色々なやり方がある。

講演も佳境 大越健介氏

⑨日本は40年ごとに変化が訪れている傾向がある。例えば
1868年 明治維新、近代国家へと変遷。
1908年 日清戦争、日露戦争で勝利。
1948年 第2次世界大戦で敗戦、1941年戦争勃発~1945年終戦。
1988年 バブル経済の崩壊
2028年 どう予測するか。右肩下がりの現実、右肩下がりの日本。
※大震災は教えてくれた。大震災は天の教えか、襟を正して生き方を変える必要があるのに幻影を見続けて何もやってこなかった。でも日本人は世界に類のない優しさを持ち、実直で人を攻撃しない、心に美しさを備えている日本は、本当に良い国、もっと自信を持って生きていくべきである。

⑩震災の教訓は人々の共通の財産、これから、今を見つめて新しいものを作っていく、税、エネルギー、災害、今こそ真剣に考えるべきである。今後2番底だって有り得るかもしれない。そんな意識を持って生きていく事が必要なのではないか。

⑪NHKニュースは、正確、中立、公平、迅速、客観性、そして問題意識を持ってこれからも報道していきたい、との言葉で講演会は終了しました。


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